広告運用をしていると、数字では説明しきれない感覚が溜まっていきます。「雨の日は調子が悪い気がする」「連休前は問い合わせが鈍い気がする」といったものです。
当社にも、以前から気になっていた感覚がありました。雨の日は費用対効果が悪い気がする、というものです。ただ、以前は検証する手立てがありませんでした。天気のデータをどこから持ってきて、どう突き合わせればいいのか分からないまま、レポートに書くこともなく流していました。
この状況はここ数年で変わりました。天気をはじめとする外部データの多くは、無料で取得できる形で公開されています。そして、それを自社の数値と突き合わせて統計的に確かめる作業は、AIを使えば現実的な時間で終わります。
実際に検証してみたところ、当初の肌感覚は半分だけ正しいという結果になりました。この記事では、外部データをどこから取れるのか、どう突き合わせるのか、そして何につまずくのかを書きます。
天気データは無料で取得できる
まず、入手先です。天気に関しては、日本国内で使える選択肢が複数あります。
| データ | 取得元 | 形式 | 費用と利用条件 |
|---|---|---|---|
| 過去の気象データ | 気象庁「過去の気象データ・ダウンロード」 | CSV | 無料。公共データ利用規約に準拠し、出典を明記すれば業務利用も可能。加工した場合はその旨も併記する |
| 過去・予報の気象データ | Open-Meteo | API(JSON) | 無料枠は非営利目的に限られる。業務で使う場合は有料プランの契約が必要 |
| 花粉の飛散数 | ウェザーニューズが公開する観測データ | CSV/API | 非営利であれば出典明記で利用可。営利目的での利用は同社への確認が必要 |
| 祝日 | 内閣府が公開する祝日CSV(オープンデータカタログにも掲載) | CSV | 無料。CC-BYで公開されている |
| 検索トレンド | Googleトレンド | 非公式ライブラリ経由 | 無料。ただし公式APIではないため、仕様変更で動かなくなる可能性がある |
ここで一番注意すべきは、費用ではなく利用条件です。 「無料で使えるAPI」として紹介されているものの多くは、非営利目的に限って無料という条件が付いています。個人の趣味や研究であれば問題ありませんが、事業の判断に使う場合は条件から外れます。紹介記事の「無料」という表記だけを見て使い始めると、後から条件違反に気づくことになります。業務で使うなら、出典を明記すれば利用できる公的なデータを選ぶか、有料プランを契約するのが確実です。
もう一つ、データの提供元は無くなることがあります。花粉については、かつて環境省が観測システムを運用してデータを公開していましたが、この事業は2021年度で廃止されました。現在は民間の観測データが実質的な代替になっています。何年か前の記事を見て「このデータが使える」と判断すると、すでに存在しないということが起こります。着手前に、提供が今も続いているかを必ず確認してください。
外部データと突き合わせると何が分かるのか
外部データそのものに価値があるわけではありません。価値が生まれるのは、自社の数値と日付で突き合わせたときです。
広告の管理画面には、その日いくら使って何件成果が出たかが日次で残っています。サイトのアクセス解析にも日次のデータがあります。ここに「その日の天気」「その日が祝日か」といった列を足すだけで、これまで見えなかった切り口が生まれます。雨の日と晴れの日で成果がどう違うか、連休中とそれ以外でどうか、といった比較ができるようになります。
やっていることは、日付をキーにした表の結合です。特別な技術ではありません。にもかかわらずこれまで広く行われてこなかったのは、手間の割に成果が読めなかったからだと考えています。データを集めて整形し、統計的に意味のある差なのかを確かめるまでには、それなりの工数がかかります。「たぶん何も出ない」と思いながらその工数を払える現場は多くありません。
この前提が変わりました。データの取得も、集計も、統計的な検定も、AIに任せれば短時間で終わります。思いついた仮説を、その日のうちに確かめられるようになったことが本質的な変化です。試す回数を増やせるので、外れても損失が小さくて済みます。
実際に検証して分かったこと
当社が支援している案件のひとつで、実際に検証しました。1年以上にわたる日次の成果データと、その地域の日ごとの天気を突き合わせています。守秘の都合で具体的な数値と業種は書けませんが、分かったことの構造はそのまま共有できます。
結果は、当初の肌感覚を部分的に裏づけるものでした。 雨の日は費用対効果が悪化する。ただし常にではなく、曜日によって効き方がまったく違いました。ある区分でははっきりした差が出て、別の区分ではほとんど動かない。しかも差が出る側では、雨が強いほど悪化の度合いも大きくなるという関係が見られました。偶然の揺らぎでは説明しにくい差であることも、統計的に確かめています。
思った以上の示唆が出たのは、まさにこの点でした。全部をまとめて見ていたら「弱い関係がありそう」で終わっていたはずだからです。切り分けたことで、打ち手に使えるだけの差として立ち上がってきました。
そして数字を見たあとに、なぜそうなるのかの説明が後から立ち上がってきました。人の行動が天気に左右される場面と、天気に関係なく動かざるを得ない場面がある。その違いがそのまま数字に出ていた、という説明です。これは当初立てていた仮説には含まれていませんでした。検証してみるまで、そんな切り口があること自体に気づいていなかったわけです。
ちなみに、検証する前に立てていた別の仮説は外れました。「雨の日は家にいる時間が長くなり、スマートフォンを見る時間も増えるのだから、むしろ成果は上がるのではないか」というものです。データを見ると、雨の日はクリックそのものが減っていました。在宅時間が増えても、そのサービスを検討する気持ちは増えない、ということです。
さらに後日、「曇りや雨が続いたあとに晴れた日は、みんな外出してしまって申し込みが減るのではないか」という仮説も検証しました。こちらは支持されませんでした。一部の区分ではむしろ逆に出ており、打ち手に使える規則性はないという結論になりました。
外れた仮説も、検証した価値はあります。 「たぶんこうだろう」で運用の判断を変えずに済むからです。
分析の判断が、運用の判断に変わるまで
分析は、運用の判断に翻訳できて初めて意味を持ちます。今回の検証で得られたのは、差が出ると分かっている条件の日は、天気が崩れる予報なら予算を抑えるという、具体的で実行できる判断でした。
以前は同じ状況で、成果が落ちてから「雨だったからでしょう」と後付けで説明していました。検証を経た今は、崩れることが分かっている日に先回りして手を打てます。事後の説明が、事前の判断に変わったわけです。
もう一つ副産物がありました。レポートで外部要因に触れられるようになったことです。それまでは、裏づけのないことは書けないので言及を避けていました。 天気の話を印象で書けば、次に外れたときに信用を落とします。検証を通した今は、根拠を示したうえで書けます。
突き合わせるときの手順
実際に進めるときの順番です。
- 肌感覚を仮説の形にする — 「雨の日は調子が悪い気がする」を「雨の日は成果あたりの費用が上がる」と言い直します。何と何を比べるのかがはっきりしていれば十分です
- 粒度をそろえる — 自社の数値と外部データを、同じ単位で並べます。日次が基本です。地域が関係するデータなら、地域の単位もそろえます
- 外部データを取得する — 前述の入手先から取ります。利用条件の確認をここで済ませます
- 混ざっている要因を切り分ける — ここが最も重要です(次の章で詳しく書きます)
- 偶然との区別をつける — 数件の差は、たまたま出ることがあります。統計的な検定で、偶然では説明しにくい差なのかを確かめます
- 運用の判断に翻訳する — 「相関があった」で止めず、明日から何を変えるのかまで落とします
つまずきやすい点
検証してみて、実際につまずいた点を挙げます。
曜日が混ざる。 週末は平日と成果の水準がそもそも違います。天気を見ているつもりで曜日を見ていた、ということが起こります。今回、曜日の区分を分けて初めて意味のある差が見えました。季節も同じで、気温の影響を見るときは同じ月の中で比べないと、季節そのものの影響を拾ってしまいます。
期間の取り違え。 突き合わせる2つのデータで、記録が始まった時期が違うことがあります。片方だけ長い期間を集計に入れると、実際には効いている差が薄まって見えます。当社も一度これで数字を過小に見積もり、集計対象を短い側の期間に合わせて出し直しました。
相関と因果を混ぜない。 同時に動いているからといって、一方が他方の原因とは限りません。今回は「なぜそうなるのか」の説明が立ち、程度に応じて結果も変わることを確認できたので、運用の判断に使う根拠として十分だと判断しました。
効かなかったという結果も残す。 外れた仮説を捨ててしまうと、同じ検証を半年後にもう一度やることになります。検証した日付と結論を、短くていいので記録しておきます。
ほかに突き合わせられそうな外部データ
天気以外にも、日付や地域をキーに結合できるものはあります。
- 祝日・連休 — 内閣府のCSVで取得できます。連休の初日と最終日で行動が違う、といった切り口が作れます
- 花粉の飛散数 — 症状が出る時期に需要が動く商材であれば、季節でひとくくりにするより解像度が上がります
- 気温 — 天気(降るか降らないか)とは別の軸です。暑さ寒さで動く商材では、こちらのほうが効くことがあります
- 検索トレンド — 世の中の関心量そのものの変動です。自社の成果が落ちたとき、市場全体が落ちているのか自社だけなのかを切り分けられます
どれも「取れるからやる」ではなく、その事業の顧客の行動を左右しそうかで選んでください。関係のないデータをいくら結合しても、何も出ません。
それでも人がやることは残る
ここまで書いたとおり、取得も集計も検定もAIに任せられます。それでも、最初のきっかけを出すところは人が担うしかないというのが、やってみての実感です。
「天気と突き合わせたら何か出るのではないか」という発想は、現場でその商材を見続けていないと出てきません。データを渡せばAIが勝手に外部データとの関係を探しに行ってくれる、ということは起きないのです。分析を速くする道具は手に入りましたが、何を分析するかを決めるのは、今のところ人の仕事です。
裏を返せば、現場で積み上がった説明できない感覚は、それ自体が資産だということになります。
よくある質問
Q. 統計の知識がなくても検証できますか。 A. できます。実際の作業は、データを並べて比較し、偶然かどうかを確かめるところまでAIに任せられます。ただし、結果を受け取ったあとに「曜日は混ざっていないか」「期間はそろっているか」と疑う視点は必要です。この記事のつまずきやすい点を、確認項目として使ってください。
Q. どれくらいのデータ量が必要ですか。 A. 日次のデータで、最低でも1年分は欲しいところです。季節の影響を含む要因を見るなら、季節が一巡している必要があります。成果の件数が少ない事業では、日次だと差が見えにくいこともあります。
Q. 分析して何も出なかったら無駄になりませんか。 A. 「効かない」と分かること自体に価値があります。根拠のない要因で運用の判断を変えずに済みますし、レポートで的外れな説明をしなくて済みます。以前と違って検証にかかる時間は短いので、外れたときの損失も小さくなっています。
Q. 無料のAPIを業務で使っても問題ありませんか。 A. 提供元の利用条件を必ず確認してください。無料と書かれていても、非営利目的に限るという条件が付いていることがよくあります。業務で使うなら、出典明記で利用できる公的なデータを選ぶか、有料プランを契約するのが確実です。
まとめ
外部データを自社の数値と突き合わせる分析は、特別な取り組みではありません。日付をキーにした結合と、混ざっている要因の切り分け、そして偶然との区別。この3つができれば形になります。
変わったのは、その作業にかかる時間です。以前は「たぶん何も出ない」と思うと着手できませんでしたが、今は短時間で確かめられます。確かめるコストが下がったことで、確かめる価値のある仮説の範囲が広がりました。
最初の一歩としておすすめしたいのは、現場で感じているのに立証できていないことを、思いつく限り書き出してみることです。「雨の日は」「月末は」「連休明けは」といった、これまで流していた感覚です。そのうちのいくつかは、外部データと突き合わせれば確かめられます。そして確かめられたものは、明日からの運用の判断に変わります。
当社では、広告運用の日々の改善に加えて、こうした要因の検証と、その結果を運用の判断につなげるところまでを支援しています。手元のデータで何が分かりそうか、といった段階のご相談も歓迎です。お問い合わせからお気軽にご連絡ください。