広告レポートの作成は、広告運用の仕事のなかでも特に時間を取られる工程です。当社も以前は、1本のレポートに2時間ほどかけていました。
ただ、振り返ってみると本当にしんどかったのは、かかる時間そのものではありません。作業に脳のキャパを取られることでした。数字を拾って表に貼り、体裁を整えている間、頭のなかは埋まったままになります。自動化して助かったのは、時間が浮いたこと以上に、そのキャパが空いて他の仕事に物理的にも心理的にもリソースを割けるようになったことでした。
「広告レポート 自動化」で調べると、出てくるのはツールの比較記事がほとんどです。それも一つの答えですが、当社はツールを買わずに自分たちで仕組みを組みました。この記事では、その判断の理由と、実際に組んで運用して分かったことを書きます。結論を先に言うと、自動化の本当のゴールはレポートが自動で出ることではありませんでした。
広告レポートの自動化は「3つの層」に分けて考える
まず整理しておきたいのは、ひとことで「レポートの自動化」と言っても、中身は3つの層に分かれるということです。
| 層 | やること | 手作業でやると |
|---|---|---|
| ①収集 | 各媒体から数値を取り出す | 管理画面ごとにCSVを落とす |
| ②集計 | 媒体をまたいで指標を揃え、計算する | 表計算ソフトで貼り合わせて関数を組む |
| ③出力 | 見せる形に整えて渡す | 体裁を整え、コメントを書く |
市販のツールが主に解決しているのは③の出力と、次いで①の収集です。連携済みの媒体からデータを引いてきて、きれいなレポート画面やテンプレートに流し込んでくれます。
一方で、実務でいちばん効いてくるのは②の集計層の設計です。媒体ごとに指標の定義も日付の持ち方も違うため、ここを自分たちの見たい形に揃えられるかどうかで、その後にできることが変わります。ここは各社の運用の考え方そのものなので、既製品の想定に合うこともあれば、合わないこともあります。
ツールを買うか、自分で組むか
先に、ツールを買ったほうがよいケースを正直に書きます。
- 管理しているアカウント数が多く、1アカウントあたりの費用が薄まる
- 社内に仕組みを触れる人がいない、または引き継ぎ先が確保できない
- すぐに必要で、作る時間が取れない
このいずれかに当てはまるなら、素直にツールを導入したほうが早いと考えています。
そのうえで、当社がツールを買わなかった理由は3つです。
1. 管理アカウント数に対して費用が見合わなかった
多くのレポート自動化ツールは、連携するアカウント数や媒体数で料金が決まります。当社の規模で試算すると、削減できる作業時間に対して費用が高く、費用対効果が合いませんでした。
2. 柔軟な調整ができない
ツールは、想定された使い方の範囲では非常に強力です。ただ、その想定の外に出たいときに手が出せません。「この指標をこの粒度で、この形に持ちたい」という要望は運用ごとに細かく違い、そこが通らないと結局は手作業が残ります。
3. 拡張性を考えると、自分たちで組んだほうが先があった
これがいちばん大きな理由です。レポートを出すだけなら既製品で足りますが、そのデータを別の用途に使いたくなったときに、ツールの中にあるデータは取り出しにくい。加えて当社は、AIを実務でどこまで使えるかを研究したいという狙いも持っていました。作ること自体が投資になる、という判断です。
実際に組んだ構成
当社が運用している仕組みは、特別なものではありません。媒体が標準で用意している機能と、スプレッドシート、集計スクリプトの組み合わせです。
- 収集: 各媒体のスクリプト機能(Google広告なら管理画面の広告スクリプト、MetaはAPI)で、毎日決まった時刻にスプレッドシートへ数値を書き出します
- 集計: 集計スクリプトが媒体をまたいで指標を揃え、必要な粒度に計算し直します
- 出力: 定型のレポートを自動で生成します
- 監視: 毎朝、データが止まっていないか・古くなっていないかを機械的に確認します
4つめの監視は後から足したものです。媒体側の仕様変更や認証の期限切れで、データの取得は普通に止まります。止まったこと自体に気づけないと古い数値のまま判断してしまうため、取得できているかを毎朝確認する層は必ず一緒に組みます。
自動化して分かった、本当の効果はレポートではなかった
ここがこの記事でいちばん伝えたい部分です。
仕組みを作る前に想定していたのは「レポート作成の時間が減る」という効果でした。実際に減りましたが、運用してみると、それよりはるかに大きい副産物がありました。
思い立ったときに、すぐ分析を依頼できるようになった
媒体から落とした加工前の数値が、毎日決まった場所に溜まり続ける状態を作ったことで、AIがそのまま読める数値のプールができました。
これが効きました。「先月と比べて何が変わったか」「この数値が動いた要因はどこにあるか」といった、定型のレポートには含まれない問いを、思い立ったその時にそのまま分析として依頼できます。従来であれば数値を集め直すところから始める必要があり、「確認して折り返します」と持ち帰っていたものが、その場で確かめられるようになりました。狙って作った効果ではなく、完全に良い誤算でした。
過去を尋ねたときの答えが、的を射るようになった
もう一つの想定外は、日々のレポート作成そのものが記録として積み上がっていくことでした。
毎日、AIが数値を確認してレポートにまとめる工程が回っていると、その時点の状況がスナップショットとして残り続けます。すると後から「あの時どうだったっけ」と尋ねたときに、当時の数値とそこに至る経緯を踏まえた答えが返ってくるようになります。こちらが記憶を頼りに前提を説明し直しながら聞くのと、蓄積を踏まえた答えが返ってくる前提で聞くのとでは、やり取りの精度がまったく違います。しかもこれは、運用を続けるほど厚くなっていきます。
網羅的に見て判断できるようになった
効果を最も実感するのは、判断の場面です。
数値を1つずつ順番に見ていくやり方では、時間がいくらあっても足りません。見る対象を絞れば、絞った外側は見落とします。集計が自動で回るようになったことで、全体を網羅的に見たうえで、どこを深掘りするか判断できるようになりました。結果として、仮説を立てて検証するまでの速度が大きく変わっています。
施策の記録を自動化する仕組みと組み合わせると、「数値が動いた日」と「何をした日」を突き合わせられるようになり、検証の精度はさらに上がります(Google広告・Meta広告の変更履歴を施策記録に変える仕組み)。
それでも人がやること
ここまで自動化しても、人がやるしかない仕事ははっきり残ります。
- 考察の精度を判断すること: 数値から考察の下書きを出すところまでは自動化できます。ただし、その内容が妥当かどうかの判断は、今も人が担っています
- 最終的に何がしたいかの絵を描くこと: 何のためにどの数値を見るのか、どこへ向かうのかは、データからは出てきません
- 筋の良い仮説を立てること: どこを疑うかの見当をつける力は、経験に強く依存します
正直に書くと、知識も経験も無い状態でAIにすべてを任せて成果を出せる段階には、まだ至っていないというのが実感です。仕組みは判断の速度と網羅性を上げてくれますが、判断そのものの質は、これまでの経験がそのまま反映されます。
自動化は人の仕事を置き換えるものではなく、作業を消して、人の時間を判断と検証に寄せるものです。
何から始めるか
これから同じことを始めるなら、順番が重要です。
**最初にやるべきは、レポートの体裁を自動化することではなく、数値を集約したデータベースを作ることです。**AIが参照できる数値のプールを先に用意する。ここさえできていれば、出力の形は後からいくらでも変えられます。
逆にすると、きれいなレポートは速く出るのに、そこから一歩踏み込んだ問いには何も答えられない箱ができあがります。
具体的な第一歩としては、1媒体・1アカウントぶんを、毎日同じ場所に書き出すところからで十分です。Google広告なら管理画面の広告スクリプト機能でスプレッドシートへ日次で書き出すだけでも、その日から「昨日までの数値がいつでも手元にある」状態になります。そこから媒体を増やし、集計を足し、出力を整える。この順番であれば、途中で止めてもその時点までの資産が残ります。
よくある質問
費用をかけずに始められますか
はい。Google広告の広告スクリプト機能とスプレッドシートは追加費用なしで使えます。当社の仕組みも、この組み合わせから始めました。
どれくらいの期間で組めますか
1媒体ぶんの日次書き出しだけなら、慣れていれば1日かかりません。媒体をまたいだ集計や出力まで含めると相応に時間はかかりますが、段階的に伸ばせるので、最初から完成形を目指す必要はありません。
ツールと自作は併用できますか
できます。実際、出力だけツールに任せ、数値の蓄積は自前で持つという構成は合理的です。重要なのは、加工前のデータを自分たちの手元に残しておくことです。
代理店に任せている場合、何を確認すればよいですか
レポートそのものより、その裏側にあるデータを渡してもらえるかどうかを確認することをおすすめします。加工前の数値が手元に残っていれば、担当や体制が変わっても検証の土台は失われません(広告代理店の選び方)。
まとめ
- 広告レポートの自動化は「収集・集計・出力」の3層に分かれ、既製ツールが主に解くのは出力と収集
- ツール導入が合理的なケースは確かにある。当社が自作を選んだのは、費用対効果・柔軟性・拡張性の3点から
- 自動化して最も効いたのは、レポートが出ることではなく、AIが読める数値のプールができたこと。思い立ったときにすぐ分析を依頼でき、過去の経緯を踏まえた答えが返り、網羅的に見て判断できるようになった
- 考察の判断・目的の設定・仮説立ては、引き続き人の仕事
- 始めるなら、体裁より先に数値のプールをつくる
当社は自社の運用でこの仕組みを組み、クライアントの広告運用にもそのまま使っています。レポート作成に時間を取られている、あるいは数値はあるのに検証に活かせていない、という段階の方は、お問い合わせからご相談ください。何を自動化すべきで、何は手元に残すべきかの整理からお手伝いできます。検討段階のご相談でも構いません。